後遺障害と労災
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後遺障害と「労災の等級・年金」「会社の損害賠償」
《もくじ》
後遺障害は「治ゆ」後にも残る障害のこと
労働災害による疾病や負傷が「治ったとき」に,なお心身に障害が残っている場合に,労働災害上の後遺障害があるものとされます。
「治ったとき」に心身に障害が残っているというのは、一般的な用語としては理解しにくいかもしれませんが,労災では,これ以上の治療の効果が認められない時点を「治ったとき」とか「治ゆ」といっているわけです。
これは、自賠責における「症状固定」の概念と同じです。
日本語的にはまだ「症状固定」の方が分かりやすいと思いますが,どちらも同じ意味と考えておいて問題ありません。
症状固定になるとどうなるか?
症状固定になった場合、大きな効果として、
- 治療期間が終了する
- 後遺障害の補償が受けられる可能性がある
という2点が挙げられます。
(1)症状固定を判断するのは?
基本的には,症状固定の判断は「医師の判断」によることになります。
むち打ちのような比較的軽い傷病であれば6ヶ月程度の治療期間の後に症状固定とされることが多いですが,
重症の場合には治療期間が2年以上に及ぶこともあります。
(2)治療期間の終了
症状固定と判断されると,それまで労災保険から支払われていた治療費(療養給付)や休業補償給付が支払われなくなります。
つまり,症状固定時に労災が定める後遺障害等級に該当する後遺障害がない場合には,その時点で労災からの補償給付(特別支給金含む)が打ち止めになるということです。
そうすると,出来るだけ症状固定を先延ばしにした方が良いのかと考えられる方もいるかもしれませんが,必ずしもそうではありません。
本当に大切なのは,治療期間のうちに後遺障害等級認定の該当性や,会社等の第三者への損害賠償可能性を踏まえて必要十分な治療を行うとともに,必要不可欠な検査などをしっかりとしておき,補償・賠償の最大化を計ることです。
特に,会社等の第三者への損害賠償が絡む場合,治療期間が長すぎることはマイナスに働く可能性があるため,早めに専門家である弁護士に相談されることをお勧めします。
(3)後遺障害の補償
一方で,症状固定時に労災が定める後遺障害等級に該当する後遺障害が残存している場合には,
後遺障害等級の申請,正確には,障害(補償)給付申請をすることで労災から後遺障害等級該当性の審査が行われ,
後遺障害等級に該当すると判断された場合には障害(補償)給付や障害特別支給金が支払われることになります。
障害等級
労災は多くの症状について1級から14級までの後遺障害等級の定めており,
認定された等級によって後遺障害の重さ(=補償給付額の大きさ)が変わってきます。
1級が最も重く,14級が最も軽い後遺障害となるのですが,労働災害における後遺障害給付の最大の特徴は,7級以上であれば年金がもらえるという点にあります。
これは類似の制度である自賠責保険にはない労災保険の大きな特徴です。
障害年金
労災年金は対象者が死亡するまで支払われるものですので,7級と8級では補償金額に大きな差が生じます。
単体の後遺障害では8級相当である場合であっても,他の後遺障害と併せて「併合」の処理がされ7級と認定されることもあります。
「併合」というのは2つ以上の後遺障害等級に該当する症状がある場合に,それらを併せて1つから3つ上の等級を認定する処理のことです。
例えば,8級と13級に該当する後遺障害が残っている場合には,重い方の後遺障害等級を1つ繰り上げる処理がされ,併合7級という認定になります。
専門の弁護士に相談を
残っている後遺障害が労災保険上の何級に該当するかという点の判断は専門家でなければかなり難しい部分があります。
弁護士法人エースでは
- 労災保険の後遺障害等級
- 自賠責保険の後遺障害等級
- スポーツ振興センターの後遺障害等級
- 障害年金の後遺障害等級
など多くの制度の後遺障害等級申請をサポートしていており,経験値を踏まえて的確なアドバイスをすることができますので,是非お気軽にご相談ください。
後遺障害の等級・給付内容・申請
後遺障害「等級」と「給付内容」
労災の後遺障害ごとの「障害(補償)給付」の内容は,
給付基礎日額の何日分という形で定められています。
(給付基礎日額とは、労災事故発生時の被災労働者の給与額によって定められるものです。)
また,労災保険において後遺障害等級の認定がされる場合, 障害(補償)給付というメインの補償金給付以外にも,
認定された等級に応じて8万円〜342万円の「障害特別支給金」というものが支給されます。
障害特別支給金は,7級以上の後遺障害等級であっても1回きりの一時金です。
なお、賞与の逸失についても,「障害特別一時金」(8級〜14級)や「障害特別年金」(1級〜7級)という形で補償されます。
これをまとめると次の表のような形になります。
障害 等級 | 障害補償 給付 | 障害特別 支給金 | ||
第1級 | 年 金 | 給付基 礎日額 313日分 | 一 時 金 | 342万円 |
第2級 | 277日分 | 320万円 | ||
第3級 | 245日分 | 300万円 | ||
第4級 | 213日分 | 264万円 | ||
第5級 | 184日分 | 225万円 | ||
第6級 | 156日分 | 192万円 | ||
第7級 | 131日分 | 159万円 | ||
第8級 | 一 時 金 | 503日分 | 65万円 | |
第9級 | 391日分 | 50万円 | ||
第10級 | 302日分 | 39万円 | ||
第11級 | 223日分 | 29万円 | ||
第12級 | 156日分 | 20万円 | ||
第13級 | 101日分 | 14万円 | ||
第14級 | 56日分 | 8万円 |
障害 等級 | 障害特別 年金 | 障害特別 一時金 | ||
第1級 | 年金 | 基礎算 定日額 313日分 | なし | |
第2級 | 277日分 | |||
第3級 | 245日分 | |||
第4級 | 213日分 | |||
第5級 | 184日分 | |||
第6級 | 156日分 | |||
第7級 | 131日分 | |||
第8級 | なし | 一 時 金 | 基礎算 定日額 503日分 | |
第9級 | 391日分 | |||
第10級 | 302日分 | |||
第11級 | 223日分 | |||
第12級 | 156日分 | |||
第13級 | 101日分 | |||
第14級 | 56日分 |
7級以上の後遺障害等級で労災年金をもらう場合には,年1回の定期報告書を提出することになっており,
その定期報告書により後遺障害が「増悪」したり「軽快」したと認められる場合には
後遺障害等級の変更がされることがあります。
8級以下の後遺障害等級が認定された場合には一時金給付を持って労災保険の給付は終了したことになるため,良くも悪くも事後的な等級変更などはありません。
労災の後遺障害等級「申請手続」
申請に必要な書類
労災の後遺障害等級申請に必ず必要になるのが医師の作成した後遺障害診断書です。
後遺障害診断書とは後遺障害の内容に特化した診断書であり,労災保険の等級認定専用の書式がありますので,その書式によって医師に作成してもらう必要があります。
また,他にも症状の内容や程度を示すための検査結果などの資料が必要になることもありますし,必要とまではいえなくとも等級認定に有用になる書類もあります。
労災認定に必須ではない検査結果や医師作成の意見書,弁護士作成の意見書などです。
労災の後遺障害等級認定を受けようとする場合には,上記書類を揃えた上で,労働基準監督署に対して障害補償給付の申請をすることになります。
ちなみに,障害補償給付の申請についても専用の書式がありますが,業務災害のケースと通勤災害のケースでは書式が異なりますので注意してください。
認定審査
障害補償給付の申請後は,被災した労働者と調査員の面談が行われたり,会社や病院などへの照会が行われたりしながら後遺障害等級の認定審査が進むことになります。
障害補償給付の申請からと認定までの期間はケースバイケースですが,だいたい2〜4ヶ月となることが多いです。
認定結果に不服がある場合
後遺障害について労働基準監督署の認定した結果に不服がある場合には,
審査請求,再審査請求,行政訴訟という順で不服申立ての機会が与えられています。
ただし,審査請求は認定通知を受けてから3ヶ月以内,再審査請求は審査請求の決定があってから2ヶ月以内,行政訴訟は再審査請求の決定があってから6ヶ月以内という厳格な期間制限があるので注意が必要です。
認定内容に疑問や不服があるときには,すぐに労災専門の弁護士にご相談ください。
会社等の第三者への損害賠償請求
労災事故の場合,被災した労働者以外の第三者に労働者への賠償責任が生じるケースがあります。
例えば,業務中に同僚から暴力を振るわれたとか,上司の監督ミスで負傷したとか,全く関係のない第三者の故意過失で負傷したというケースです。
この場合には,労災からの補償給付とは別に,当該第三者に対して慰謝料等の損害賠償請求をすることができます。
また,会社は,労働者に対して安全配慮義務という雇用契約上の義務を負っていますので,労災事故の原因が会社の安全配慮義務違反といえる場合には会社に対して慰謝料等の損害賠償請求をすることができます。
会社等の第三者への損害賠償請求は,労災保険からの補償給付とは別に請求できるものですが,治療費や療養(補償)給付(休業損害)や障害(補償)給付などは第三者への損害賠償請求から控除(損益相殺)される性質のものです。
ただし,単純に差し引きするというものではなく,費目間拘束といった判例法理による考え方を反映した方法で控除(損益相殺)されます。
他方,労災保険から支給される特別支給金は第三者への損害賠償請求との関係でも損益相殺の対象となりません。
慰謝料請求と慰謝料の相場
労災保険で補償されない損害として,被災した労働者の慰謝料があります。
慰謝料を請求する対象としては,当該被災を起こした責任のある第三者ということになりますが,後遺障害慰謝料の基準は交通事故の場合をベースにされることがほとんどで,等級ごとに110万円〜2800万円と定められています。後遺障害慰謝料をまとめると次の表の通りとなります。
第1級 | 2800万円 |
第2級 | 2370万円 |
第3級 | 1990万円 |
第4級 | 1670万円 |
第5級 | 1400万円 |
第6級 | 1180万円 |
第7級 | 1000万円 |
第8級 | 830万円 |
第9級 | 690万円 |
第10級 | 550万円 |
第11級 | 420万円 |
第12級 | 290万円 |
第13級 | 180万円 |
第14級 | 110万円 |
専門の弁護士に相談を
このように,労災保険で後遺障害等級認定が受けられる場合,会社を含めた第三者に更なる賠償請求をできるケースがありますが,これを自力で行い適切な結果を出すことは事実上極めて困難ですので,早めに専門家である弁護士に相談されることをお勧めします。
弁護士法人エースは交通事故,医療過誤,学校事故,傷害事件,労災事故などによる人身損害賠償を得意としており数多くの経験を有しています。
相談料は無料ですので,まずはお気軽にご相談ください。
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