大切な人が過労死(過労自殺)してしまったときに,遺された人にできること。

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過労死とは?

過労死とは、一般的には業務が原因となって、労働者に脳・心臓疾患が生じて死亡した場合や心理的負荷が生じて自殺に追い込まれた場合等をいいます。
脳・心臓疾患とは、脳出血、くも膜下出血、脳梗塞等の脳血管疾患及び狭心症、心筋梗塞等の虚血性心疾患を言います。加重な業務、特に長時間労働によりこれらの疾患を発症して死亡した場合が、いわゆる過労死の典型例です。
このコラムでは、過労死のうち、長時間労働によって脳・心臓疾患が生じて死亡した場合と、精神障害が生じて自殺に至った場合について説明したいと思います。

過労死だと思ったらどうする?

 もちろん会社にすぐ連絡することはもちろんですが、ご遺族がご家族の死の原因が仕事にあるのではないか?と思ったらまずは労災申請をすることが必要です。いきなり会社に対して、「仕事のせいで亡くなったんだ!」と言っても、なかなか会社も責任を認められません。
 まず、労災申請をして、行政から労災である旨の判断を獲得することが大切です。ですから、まずは会社に労災申請をしたい旨を伝えましょう。会社が労災申請について協力をしなければなりませんが、会社によってはそれを嫌がることがあります。会社が協力を拒否しても労災申請は可能ですから諦めてはいけません。

会社への請求をすると何が問題となるの?

 労災保険が、ご遺族の死が労災であると認定したら、雇用契約を前提とした債務不履行を理由とするのか、または不法行為責任なのか、根拠はさておき、会社に対して損害賠償請求をすることになります。
 ご遺族が亡くなったことによって、ご遺族の慰謝料や、亡くならなければ得られたであろう利益、また残されたご遺族の固有の慰謝料等を請求していくことになります。
 よく問題となる争点は、業務と死との間の相当因果関係、安全配慮義務違反ないし過失、そもそも労働者に死の原因が内在していたのではないか(素因減額)、労働者の法で死の結果を避けられたのではないか(過失相殺)、損害の金額等、多岐にわたります。
 各争点については、様々な裁判例の蓄積がありますから、事情と過去の裁判例を照らしあわせて検討し、主張立証をしていく必要があります。
 以下では、上記の争点のうち、一番根本的な部分つまり、残業と死亡との因果関係について問題となった裁判例を前提に、裁判所がどのように残業と死亡との因果関係を考えているかをご説明します。なお、因果関係のことを法的には「業務起因性」といいますが、このまま因果関係という言葉で説明をしていきます。

残業と死亡との因果関係の考え方は?

 *脳・心臓疾患で亡くなった場合
労災で一定の基準が設けられており、対象疾病を例示し、①発症直前から前日までの間において業務中に異常な出来事に遭遇したか、②発症に近接した時期に特に過重な業務に就労したか、③発症前の長期間に渡って、著しい疲労の蓄積をもたらす特に加重な業務に就労したことのいずれかに当たることを認定要件としています。
長時間労働との関係では、②も関係しそうですが、基本的に③に該当するかどうかが問題となるでしょう。
そして、③の長期間の加重業務については、発症前2か月から6か月の間に残業時間がおおむね45時間を超えて時間外労働時間が長くなるほどに業務と発症との関連性が徐々に強まると評価でき、発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月から6か月間の間のどこかで80時間の時間外労働があると、因果関係が認められるとされています。

裁判所は、上記行政上の労災認定基準に必ずしも拘束されるわけではありませんが、ほとんどの裁判例は認定基準を合理的なものと考え、さらに、どのくらい長時間の残業があったかに加えて、どのくらいの重い質の勤務があったのかを考慮して、業務と死亡との間に因果関係を認められる程度に長時間労働があったのかを検討します。
ですから、月80時間超え、直前1か月は100時間を超えたケースで因果関係を認めた裁判例がある一方で、平均53〜63時間の残業が発症前2か月から6か月にあったという事案でも因果関係が認められています。直前ではなく、発症の半年前の過重労働を考慮して因果関係を認めた例もありますし、月平均45時間未満の残業でも、業務の内容に鑑みて因果関係を認めた例もあります。
 *自殺で亡くなった場合
自殺の場合は、労災保険法においては保険給付の対象外とされてきましたが、現在では、行政通達において、業務による心理的負荷によって一定の精神障害が発症した者が自殺した場合にも労災保険の支給対象となるという扱いがされています。
労災に当たると言うためには、この行政基準に該当する必要がありますが、大まかにいいますと、①対象疾病を発病していること、②発病前約6か月の間に業務による強い心理的負荷が認められること、③業務以外の原因によって発病したとは認められないことという基準です。
裁判所は、行政基準に必ずしも拘束されないのは上述したとおりですが、裁判所も行政基準と同じような考え方をしていると思われます。
裁判所の考え方として参考になるのは以下の基準です。すなわち、「平均的労働者にとって、当該労働者の置かれた具体的状況における心理的負荷が一般に精神障害を発症させる危険性を有しているといえ、特段の業務以外の心理的負荷及び個体側の要因のない場合には、業務と精神障害発症及び因果関係との間に相当因果関係が認められると解するのが相当である」と述べた裁判例です。
少々分かりづらいですが、要するに、その労働者が特別に精神的に弱いとか、強いとかはさておき、一般的な労働者であれば心がやられてしまうようなきつい状況があれば、原則として因果関係があると判断しましょうということです。労災基準を違う言葉に言い換えた内容と言って良いと思います。
裁判例を概観すると、月に100時間を超えるような残業があると裁判例上も自殺との因果関係を認める例が多いように見受けられます。もちろん、そこまでの残業がなくても他の要因を理由に因果関係を認めた裁判例もあります。

過労死について労災申請をすると,どれくらい労災認定がされているか

厚生労働省の資料によると、脳・心臓疾患の認定率は、平成27年度が37.4%、平成28年度が38.2%とされています。1か月当たりの平均時間外労働時間が80時間未満であってもそれぞれ12件、14件の認定がされています。
他方で、精神障害の認定率は、平成27年度が36.1%(うち自殺・自殺未遂は45.4%)、平成28年度が36.8%(うち自殺・自殺未遂は47.7%)となっています。
具体的な申請の内容は明らかでないので、この割合についての評価はしづらいですが、精神障害については、認定されたもののうちの半分くらいが因果関係を認められていますので、申請されたものについてはかなりの割合で労災認定されているといえるのではないでしょうか。

労災認定や裁判での一般的な注意点

 過労死とされる事案では、往々にして業務との因果関係の立証が難しいことが多くあります。というのも、事前の健康診断の不受診、死亡の際の剖検の不実施等のせいで医学的な根拠が乏しいことがあるからです。
それだけでなく、そもそも出勤簿やタイムカード、パソコンの使用履歴、携帯電話の通話履歴など業務についての資料は会社が持っていますから、労働実態も明らかするでないことが多いことも立証が難しいことの理由の一つです。まずは迅速な資料収集をすることが大切といえます。特に、脳・心臓疾患の場合にはお医者さんの意見書等の資料を作成する必要があることが多いです。
 もっとも、労災の認定が不服であるとして行政訴訟を提起してから行政側から開示される資料もあるので、最後まで諦めてはいけません。

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